2006年、マクドナルドは顧客からの「もっとヘルシーなメニューがほしい」という声に応え、「サラダマック」を発売しました。 アンケートやインタビューでは、多くの消費者が健康志向を表明していました。 しかし、結果は歴史的な大失敗。商品は鳴かず飛ばずで、早々に販売終了へと追い込まれました。 皮肉なことに、その後に発売されたのは、従来の2倍以上のパティを使った「クォーターパウンダー」。 こちらは、サラダマックとは対照的に大ヒットを記録しました。 顧客の声を聞いて開発した商品は失敗し、その真逆ともいえる商品が成功した。この事実は、私たちマーケターや企画担当者に、重い問いを投げかけます。一体なぜ、顧客は「嘘」をついたのでしょうか?
ポッドキャストでも同じテーマでお話ししました。ながらインプットしたい方はぜひご活用ください。 https://youtu.be/i7HzdRtyaLc ぜひフォローをお願いします。 AI × デザイン の力を使った 【企画・集客ウェビナー】を開催します。 無料お申し込みはこちら(340名突破) https://adp-85.peatix.com/ AI × デザイン の力を使った 【資料作成・話し方ウェビナー】を開催します。 無料お申し込みはこちら(60名突破) https://miraichi0904.peatix.com/
結論から言えば、顧客は嘘をついたわけではありません。彼らはただ、自分自身の本当の動機を正確に言語化できないだけなのです。 マーケティングにおける「インサイト」とは、消費者自身も気づいていない無意識の心理や動機を指します。これは、本人が自覚している「顕在ニーズ」や、少し質問すれば出てくる「潜在ニーズ」よりも、はるかに深い層に隠されています。 アンケートやインタビューの場で、私たちは「あるべき論」や「理想の自分」を語りがちです。 「健康には気を使うべきだ」という社会的な規範を前に、「高カロリーなジャンクフードが大好きです」とは、なかなか言いづらいものです。 この現象は、社会調査における「ソーシャル・デサイラビリティ・バイアス(社会的望ましさのバイアス)」 と呼ばれるもので、人は無意識に、社会的に受け入れられやすい回答をしてしまう傾向があるのです。 マクドナルドの事例で言えば、顧客がアンケートで語ったのは「建前(健康志向でありたい自分)」でした。 しかし、実際の購買行動に現れたのは「本音(たまには罪悪感を覚えながら、ガッツリしたものを食べたい)」だったのです。
顧客の発言は「事実」だが、「真実」とは限らない。 この言葉を、私たちは肝に銘じなければなりません。
「では、どうすればいいのか?」 その答えは、顧客の「発言」ではなく「行動」を観察することにあります。人は言葉で自分を飾ることはできても、無意識の行動に本音が表れるからです。 特に、AIが膨大なデータを処理できるようになった現代において、この視点はますます重要になります。AIは、既存の言語化されたデータ(レビュー、アンケート結果、検索キーワードなど)を分析するのは得意です。 しかし、まだ誰にも言語化されていない、顧客自身も気づいていない「インサイト」を発見することはできません。 市場に存在する問題のうち、言語化されているのは全体のわずか5%とも言われています。残りの95%は、まだ誰も気づいていない「未開拓の市場」です。 この宝の山を掘り当てるのが、これからの企画者・マーケターの役割であり、私たちは調査票を片付け、虫眼鏡を手に取る「インサイト探偵」になる必要があります。
では、具体的にどうすればインサイトを見つけられるのでしょうか。明日から実践できる3つの思考法を紹介します。
ハーバード・ビジネス・スクールの故クレイトン・クリステンセン教授が提唱した「ジョブ理論(Jobs-to-be-Done)」は、この思考法を体系化したものです。 この理論は、「顧客は製品を『購入』しているのではなく、特定の状況で片付けたい『用事(ジョブ)』を解決するために製品を『雇用』している」と捉えます。 有名なのは「ミルクシェイク」の事例です。あるファストフード店がミルクシェイクの売上を伸ばそうと味や価格を改善しましたが、効果はありませんでした。 しかし、クリステンセン氏らが顧客を観察したところ、朝の購入者の多くが「車での長時間の通勤中の退屈しのぎと空腹を満たす」という「ジョブ」のためにミルクシェイクを「雇用」していることが判明しました。 彼らにとってミルクシェイクは、お菓子でも飲み物でもなく、「片手で持てて、腹持ちが良く、飲み終わるのに時間がかかる退屈しのぎの道具」だったのです。 このインサイトに基づき、よりドロリとして飲み終わるのに時間がかかるように改良したところ、売上は劇的に伸びました。
顧客の言葉と行動の間に「矛盾」を見つけたとき、それはインサイトの入り口です。 例えば、ある男性が「毎朝、紅茶を飲んでいます」と語ったとします。この発言だけを聞けば、「新しい紅茶の商品を提案しよう」と考えるのが普通です。 しかし、探偵のように深掘りしてみると、こんなインサイトが隠れているかもしれません。
深層心理 「本当はコーヒーが好きだ。しかし、以前コーヒーを飲んで満員電車に乗ったとき、自分の口臭が周りの人を不快にさせていないか気になってしまった。それ以来、匂いの少ない紅茶を仕方なく選んでいる。」 この男性の「ジョブ」は「周りに気兼ねなく、朝の覚醒と楽しみを得たい」です。彼に本当に必要なのは、最高級の紅茶ではなく、「飲んだ後の匂いが気にならないコーヒー」なのです。 このインサイトに気づけば、競合とは全く違う、新しい市場を創り出すことができます。
一つの事象に行き詰まったら、意図的に視点を変えてみましょう。歴史上の人物、尊敬する経営者、あるいは全く違う業界の専門家になりきって、目の前の課題を眺めてみるのです。
顧客の声に耳を傾けることは重要です。しかし、その言葉を鵜呑みにするだけでは、第二の「サラダマック」を生み出すことになりかねません。 私たちは、顧客の言葉の奥にある「なぜ?」を探求し、彼ら自身も気づいていない「ジョブ」を解決する「インサイト探偵」になるべきです。 AIには決して真似のできない、この人間ならではの洞察力こそが、これからの時代を生き抜くための最強の武器となるでしょう。 明日から、顧客との対話やデータの中に隠された「矛盾」や「不便」を探してみてください。そこにこそ、あなたのビジネスを飛躍させる、未開拓市場への扉が隠されているはずです。