自分の「好き」を説明できるでしょうか。 好きなブランド、好きなデザイン、好きな人物。 いくつかは挙げられます。 でも、 「なぜそれが好きなのか」 「好きなもの同士に共通する法則は何か」 「次に何を好きになるのか」 ここまで言語化できている人は、ほとんどいないと思います。 私もそうでした。 Google、スターバックス、ユニクロ、任天堂、HUMAN MADE、佐藤可士和……好きなものはなんとなくわかっている。 でも「なぜこれらが好きで、他は好きじゃないのか」を構造的に説明することはできませんでした。 それを、AIとの対話で見つけました。 正確には、AIに「提案してもらって、却下する」ことで見つけました。この記事では、その方法と、そこから得られたものについて書きます。 お問い合わせ先はこちら Voicy、YouTubeでも同じテーマでお話ししました。 https://youtu.be/ZWoHHiNNlsw
使ったのはClaude(Anthropic社のAI)です。 やったことはシンプルで、大きく3つのステップに分けられます。
最初にやったのは、自分が好きなものを片っ端からリストにすることでした。 ブランド、人物、デザイン、色、音楽、仕事の哲学——カテゴリは問いません。思いつく限り並べました。 Google、スターバックス、ユニクロ、Adidas、任天堂のマリオとポケモン、HUMAN MADE、NIGO®、佐藤可士和、ピクセルアート、ジャズピアノ、エレクトロニカ、赤という色。 重要なのは、この段階では「なぜ好きか」を考えすぎないことです。 理由はAIが見つけてくれます。 自分がやるべきことは、正直に「好きなものを並べる」ことだけです。
並べたリストをAIに渡して、「これらの共通点は何か」と聞きました。 AIは5つの共通項を見つけてくれました。 「王道でありながら遊び心がある」 「シンプルな構造の中に強度がある」 「過去と未来の融合」 「クラフトとスケールの両立」 「結果で語れる美しさ」。 これだけでも十分な発見でした。 自分の好みが「なんとなく」から「構造」に変わった瞬間です。 でも、本当に面白くなるのはここからでした。
ここが核心です。 AIに「この共通点を踏まえて、他に好むであろうものを提案して」と頼みました。 AIはかなり論理的に、筋の通った提案をしてきます。 Vitsœの棚、深澤直人、KAWS、Cornelius、Blue Bottle Coffee—— デザインの文脈としては完璧に「正しい」ものばかりです。 ほぼ全部、好きじゃありませんでした。 でも、ここが重要です。 「好きじゃない」と伝えた瞬間に、AIは「なぜ好きじゃないのか」を分析し始めます。 そして、最初の共通点抽出では見えなかった新しい法則が浮かび上がりました。 「この人は系譜的に正しいものには興味がない。好きなものは”点”で選んでいる」 「ノスタルジーではなく、過去を使って未来を作る側にいる」 「モノ単体ではなく、体験のシステムに惹かれている」。 これは、好きなものを並べるだけでは絶対に見えなかったものです。 「好きじゃない」と言うことで初めて輪郭が浮かび上がったのです。
このプロセスを何度も繰り返しました。 AIが提案し、私が却下し、AIがその差分を分析する。 2回目の提案では、Teenage Engineering、Stripe、Notion、Spotifyなどが挙がりました。前回の教訓を踏まえた提案でしたが、やはり好きじゃありません。 理由を伝えると、AIは「この人が求めているのは”主人公”だ。脇役やバイプレーヤーには惹かれない」という核心的なインサイトに到達しました。 3回目。 Ferrari、YouTube、Netflix。 今度は主人公ばかりを揃えてきました。 それでもFerrariは「車に興味がないから」、YouTubeは「興味ない」、Netflixは「おしい」。 ここで気づきました。 好きなものの条件は、自分が思っていたよりずっと厳しかったのです。 「王道の主人公」で「今も攻めていて」「シンプルでスタイリッシュで」「遊び心があって」「哲学と行動が一致していて」「自分の生活に取り入れられる」——これを全部同時に満たすものしか通過しません。 だから好きなものが極めて少ないのです。 最終的に、AIとのやりとりの中で「イーロン・マスクは好き」「稲盛和夫も好き」「Claudeの思想やブランディングは好き」という、自分でも明確に言語化できていなかった「好き」が引き出されました。 一見正反対に見えるマスク氏と稲盛氏が、「自分の哲学を持ち、それを貫いて、圧倒的な結果を出した主人公」という同じ構造で好きだったこと。 OpenAIではなくClaudeを好む理由が「看板と中身の一致」という誠実さの問題だったこと。これらは、AIに提案されて却下するプロセスがなければ、自覚できなかったと思います。
バラバラに見えた好きなものが、8つの共通項で繋がりました。 これは単なる自己分析を超えて、今後の意思決定のフィルターになります。 新しいブランドに出会ったとき、新しい人物の話を聞いたとき、「8つのフィルターを通過するか」で判断できる。 直感に頼っていた「好き嫌い」が、再現可能な判断基準になりました。
多くの自己分析は「好きなものを深掘りする」方向に進みます。 でも、本当に解像度が上がったのは「好きじゃない」を表明した瞬間でした。 AIが論理的に「正しい」提案をしてきて、それを却下する。 その差分の中に、自分でも気づいていなかった本音が隠れていました。 たとえば、Nikeを「シャープすぎる」と却下したことで、自分が求めているのは「強さ」だけではなく「強さの中の温かみ」だとわかりました。 IKEAを「安っぽい」と却下したことで、スケールとクラフトの両立が自分にとって絶対に譲れない条件だとわかりました。 Appleを「イノベーティブじゃない」と却下したことで、自分が惹かれているのは「王座」ではなく「王座を目指して攻めている途中の姿」だとわかりました。 「好き」は輪郭がぼんやりしている。「好きじゃない」は輪郭がくっきりしている。 だから、好きなものの本当の形は、好きじゃないものとの境界線を引くことで初めて見えるのです。
好きなものの共通点は、そのまま自分自身の価値観の鏡です。 私は最終的に、自分の好みの核心を「熱いものを冷たく出す」という一言で理解しました。 情熱やエネルギーはあるが、それをスタイリッシュなデザインで包む。ルフィのような熱量を、佐藤可士和のような無機質な洗練で表現する。 赤いシャツを着ているが、振る舞いはクールに。 これは好きなものの話であると同時に、自分自身がどうありたいかの話でもあります。 AIとの対話は、好きなものを見つけてもらうプロセスであると同時に、自分の美学・価値観・生き方を言語化してもらうプロセスでもあったのです。
同じことをやってみたい方のために、対話のコツをまとめます。
かっこつけない。 「ユニクロが好き」「マリオが好き」「赤が好き」 こういう素朴な好みこそ、AIが構造を見つける最良の材料になります。 「こんなことを挙げたら恥ずかしい」と思うものほど、本音に近い。
曖昧に「うーん、まあまあかな」と言わないこと。 「好きじゃない」とはっきり言い、できれば理由を一言添える。 「シャープすぎる」「安っぽい」「脇役っぽい」 この一言がAIの次の分析の精度を劇的に上げます。
自分で理由を完璧に説明する必要はありません。 「好きじゃない」という事実を伝えれば、AIが「なぜか」を仮説として出してくれます。 その仮説に対して「それは当たっている」「それは違う」とフィードバックを返す。このラリーを繰り返すことで、どんどん深層に近づいていきます。
1回の提案で完璧な結果は出ません。 私の場合、4回以上の提案→却下サイクルを経て、ようやく自分の「好き」の全体像が見えました。 却下のたびにAIの解像度が上がり、最終的には自分以上に自分の好みを理解した状態になります。
AIとの対話の途中で、ふと自分の口から出てくる言葉があります。 私の場合、「主人公のようで、最強のものが好き」「デジタル・無機質なかっこよさを求めている」「赤が好きなのかも」といった言葉が、AIの提案に反応する形で出てきました。 これらは、一人で考えていても出てこなかった言葉です。 AIの提案が「触媒」となって、自分の中にあった言語化されていない感覚が言葉として表出する。 この瞬間を逃さないことが大事です。
この体験を通じて強く感じたのは、AIは「好きなものを探してくれるツール」ではなく、「自分の”好き”を映し出す鏡」だということです。 AIは私の好みを当てることはできませんでした。 何度提案しても、ほとんど外れました。 でも、外れるたびに私は「なぜ違うのか」を考え、言葉にし、自分の好みの解像度を上げていきました。 AIが正解を出したのではなく、AIとの対話の中で私自身が正解を見つけたのです。 そして、自分の「好き」が構造的に言語化された今、私は迷わなくなりました。 新しいブランドに出会ったとき。 新しいサービスが出てきたとき。 誰かに「これいいよ」と勧められたとき。 8つのフィルターに照らせば、それが自分にとって本当に大切なものかどうかが瞬時にわかります。 「なんとなく気になるけど、本当に好きかわからない」という状態がなくなりました。 これは、好きなものに時間とお金とエネルギーを集中できるということです。 AI時代は、情報もモノも選択肢も無限に溢れる時代です。 だからこそ、自分が本当に好きなものを知っている人が最も強い。 好きなものがわかっていれば、それ以外を全部捨てられる。 迷いがなくなる。 行動が速くなる。 AIは、好きなものを増やしてはくれません。 でも、好きなものの輪郭を、自分が思っていたよりもずっとくっきりと見せてくれます。 自分の「好き」を知ること。それは、自分が何者かを知ることです。 AIとの対話は、その最良の方法のひとつだと思います。 個別相談はこちら お問い合わせ先はこちら