効率化が当たり前になった先に残る価値──2026年以降の「良い無駄」の話
2026. 01. 23
業務効率化は、価格競争に少し似ています。
最初は「早くできる」「安くできる」「ミスが減る」こと自体が強い武器になりますが、普及すると、いずれそれは「できて当たり前」になっていきます。
近年は、非エンジニアでも扱いやすい同僚型AIや自動化ツールが増え、効率化のハードルはさらに下がりました。
やろうと思えば、以前よりずっと多くの人が、そこそこの自動化を実現できる時代です。
では、効率化が当たり前になった後、何が価値になるのでしょうか。
私はここに、2026年以降のヒントがあると思っています。
結論を先に言えば、「効率化だけを追っていても差がつきにくくなる」一方で、「非効率で無駄だけれど、なぜか良いもの」の価値が相対的に上がっていく、という見立てです。
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効率化は「価値」から「前提条件」に移る
効率化がコモディティ化する流れは、だいたい次のようになります。
- 一部の人だけが使える武器になる(スキルや専門職の領域)
- ツール化され、誰でも使えるようになる(テンプレ化・ノーコード化・AI化)
- 多くの人が同じ水準まで到達し、「早いのは当然」になる
- 差が出るのは別の領域に移る(体験・意味・信頼・関係性など)
この変化が起きると、効率化は「あると嬉しい付加価値」から「ないと選ばれない最低ライン(衛生要因)」へ変わります。
つまり、効率化は重要ですが、効率化“だけ”では勝ちにくくなる、ということです。
供給が溢れると、価値の“希少資源”が入れ替わる
AIで作業が早くなると、市場には「効率化されたアウトプット」が大量に出回ります。
文章も、デザインも、資料も、コードも、動画も、一定の品質で量産されやすくなります。
すると、希少になるものが変わります。
- 以前は「作れること」「早く出せること」が希少でした
- これからは「選ばれること」「信頼されること」「語られること」が希少になります
言い換えると、供給が増えるほど足りなくなるのは“注意”と“信頼”と“意味”です。
どれも、単に処理速度を上げれば増えるものではありません。
「非効率で無駄だけど、何か良いもの」が強い理由
ここで、私が過去に挙げた例をご紹介します。
- 100円コーヒーがあるのに、スタバは人気がある
- サブスクがあるのに、レコードはなくならない
- 焼いた肉を出してくれる店があるのに、バーベキューは楽しい
これらは、合理性だけで説明しきれません。
むしろ「効率的な代替があるのに、あえて選ばれる」という点が共通しています。
ここで起きているのは、コーヒーや音楽や食事の機能競争ではなく、体験の競争です。
スタバは「居場所」や「気分」や「自分らしさ」を提供します。
レコードは「所有」や「儀式」や「手触り」を提供します。
バーベキューは「共同作業」や「思い出の生成」を提供します。
つまり、“非効率”は欠点ではなく、条件を満たすと価値になります。
その条件こそが、「良い無駄」です。
「自分でやりたい」欲望の正体
「自分でやりたい」という欲望は、単に成果物が欲しいだけではありません。
もう少し分解すると、次のような欲求の束になっています。
- 主導権が欲しい:自分で決めた、という感覚
- 上達したい:少しずつできるようになる満足
- 誰かとやりたい:一緒にやった、という関係性
- 物語が欲しい:語れる体験、思い出
- 身体性が欲しい:手触り、匂い、音、疲労感を含む実感
効率化は、これらを削りやすい一方で、削りすぎると魅力が薄れます。
だからこそ、効率化が進むほど「自分が関われる余地」「不完全さの心地良さ」が相対的に価値を持ちます。
不完全さが「心地良さ」に変わる3つの条件
不完全さは放っておくとただの不便になりますが、設計されると魅力になります。
私は、最低でも次の3条件が必要だと思います。
- 安全であること(失敗しても取り返せる)
- 意図があること(ただの欠陥ではなく、意味のある揺れ)
- 余白があること(受け手が解釈・工夫・参加できる)
AI生成物は、放っておくと「整いすぎる」ことがあります。
整っているのは良いのですが、余白が少ないと、受け手が入り込む場所が減ります。
この“入り込めなさ”が、消費して終わりの体験を増やしてしまいます。
「良い無駄」をビジネスとして設計する
ここからが実務の話です。
良い無駄は、偶然生まれるものではなく、「摩擦(フリクション)の設計」です。
1) 「悪い無駄」と「良い無駄」を分けます
まずは分別が重要です。
- 悪い無駄:
転記、探し物、待ち時間、確認地獄、無意味な手戻り
→ これはAIや自動化で消してよい(むしろ消すべき)です
- 良い無駄:
選ぶ、工夫する、学ぶ、共同する、儀式化する、身体で感じる
→ これは価値の核として残す、あるいは増やす対象です
間違いやすいのは、「無駄を残せば価値になる」ではない点です。
残す場所を間違えると、ただのストレスになります。
2) AIは裏方、人は主役にします
良い設計は、役割分担が明確です。
- AI: 準備、整理、下ごしらえ、面倒の除去
- 人: 選ぶ、決める、味付けする、仕上げる、共有する
料理でいえば、下処理や段取りはAIが手伝い、焼く・味を決める・一緒に食べるのは人が担う、という形が気持ち良いです。
BtoBでも同じで、AIが下書きや整理を進め、人は判断・責任・関係性・最後の編集を持つほうが納得感が残ります。
3) オートメーションを「可変」にします
同じ人でも、状況によって欲しい体験が変わります。
- 疲れている日は「任せたい」
- 元気な日は「自分でやりたい」
- 今日は学びたい、今日は早く終えたい
だから、体験としては
- オート(任せる)
- アシスト(手伝う)
- マニュアル(自分で)
を切り替えられる設計が強くなります。
“効率化”と”良い無駄”は、対立ではなく可変スライダーで両立できます。
2026年以降に伸びそうな「良い無駄」サービスの型
最後に、今後伸びそうな方向性を、型として整理します。
- AIコーチ × DIY:やるのは自分、AIは伴走
- プロセスを買う:成果物より“過程”がコンテンツ
- 余白付きの完成品:半完成、カスタム前提、リミックス文化
- 共同の摩擦:みんなで面倒をやることで関係性が生まれる
- 身体性・物質性の復権:触れる、匂う、疲れる、実感がある
ここでは、効率は否定されません。
効率は土台として必要です。
その上に「人が関われる余地」をどう乗せるかが勝負になります。
すぐ使えるチェックリスト:「その無駄は良い無駄ですか?」
最後に、現場で使える簡単な判断基準を置いておきます。
その摩擦が、次のどれかを生むなら「良い無駄」の可能性が高いです。
- 達成感(自分でやった)
- 上達感(できるようになった)
- 共同感(誰かとやった)
- 物語(語れる体験になった)
- 身体性(五感が動いた)
- 余白(工夫や解釈の余地がある)
逆に、
- 探す、待つ、転記する、何度も確認する
- 失敗が致命的で取り返せない
- 意味を説明できない
は、悪い無駄になりやすいです。
おわりに:効率化の先に「選ばれる理由」をつくる
効率化は、これからも重要です。
ただ、早さも安さもAIで民主化されやすくなります。
そのとき差がつくのは、効率化で削ってしまいがちな「人が関われる余地」を、意図をもって設計できるかどうかです。
2026年以降、伸びていくのは、「任せたい」を満たすサービスだけではなく、「自分でやりたい」を気持ちよく叶えるサービスだと思います。
不完全で、手間があって、でも心地良い。
そんな「良い無駄」を創造できるかが、次の競争の鍵になります。
— 了 —